老いた者達の夜 -アニメ35話より

「ばあや、すまんな・・」
「旦那様、そのような」
「お前にも辛い思いをさせた。いや、取り返しのつかないことをするところだった」
「あの・・アンドレには暇を取らせます」
「何を言う」
「旦那様を撃とうとしました。決して許されることではありません」
「ばあや・・私の過ちを止めたのはアンドレだ」
「それでもです。お仕えする身で、ご当主様に。私達は平民なのです。同じ館に住まっていても、そこには越えられない壁があります。あの子は・・あの子はずっと・・・でも、分かっていると思っていたのに」
「ばあや・・・」
「すみ・・ません、旦那様。取り乱して」
「アンドレには暇を出さん、これからもオスカルのそばにいてやって欲しい」
「いけません!駄目です」

「確かに私は貴族だ。だが、その前に人間で父親なのだよ。父親として、私はアンドレを信頼している」
「そんな、勿体ないことを」
「あの子が、ついそう言ってしまうな。この館に来たのは八歳の時だった。優しそうな、不安げな瞳をしていたことを覚えている。でもすぐ元気になって、いつもオスカルと一緒にいた。アンドレがそばにいることで、私はどれだけ心強かったか」
「旦那様・・」
「私は娘に過酷な運命を背負わせた。そのことに迷いがなかった日は一日もない。それでもずっとオスカルを支えてくれたあの子、いや彼がいた。オスカルにふさわしいと言うなら、アンドレ以外いないだろう。二人は何があっても離れられないほどの絆で結ばれている。父としてどれほどの喜びかわかるか。愛しい娘に、炎の道を行く娘に、そのような伴侶がいることが」

「旦那様、あの子は・・・アンドレはずっと・・」
「わかっている、だから悲しみの涙を流すのはやめて、彼らの門出を祝う喜びの涙にしなさい。しかし娘に求婚者が現れると、父親はいつも動揺するものだな。こればかりは慣れそうにない」
「まあ、旦那様」
「そう、ばあやは笑っていなさい。若者の道は未来に繋がっているのだ。老人達は見送ればいい」
「旦那様はまだ、そんなお年じゃございませんよ」
「そうかな・・いや、そうか。私にはまだ為すべきことが残っている。それがオスカルと違う使命であっても」
「いえ、旦那様もオスカル様も、きっとアンドレも、信じるものを守るために戦われるのです。私はただ見守り、祈ります。皆が信じる道を力強く進まれますよう、いつまでも・・・お祈りしております」
「ありがとう・・・」

それは一七八九年六月のことだった。運命の七月、歴史を変えるその日はすぐそこに、来ていた。

 

END

 

 




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