残光

私は沼で生まれた。最初は小さな存在だった。誰にも顧みられない。そこへひとりの男がやってきた。私を気に入ったわけではない。ただ、私が適役なのだと、その男は言った。

彼は私を飾り立てた。重い装飾、金や銀や宝飾品。私の痩身は、折れそうだった。沢山の人々がやってきて、金の重みで膝を屈しそうな私を褒めそやす。
『なんと素晴らしい、・・の威光をこれほどに現せるものはないでしょう』
『このような・・は見たこともありませんわ。あの・・・もこれにはとても敵いません』
煌びやかな装飾品の下は、ひ弱な身体があるだけだと言うのに。

男は満足そうだった。だが彼の自尊心は充分に満たされなかったらしい。ますます私を飾り、人々の前に立たせ、賞賛される私と踊った。彼自身も金色の衣装をつけて。

それでも私は彼を愛していた。昼も夜も私を離さず、私が人を驚嘆させるよう飾り立てることに情熱を傾けている彼。彼が自分自身しか愛さず、信じなかったとしても。彼の虚栄を満たしてあげられるのは私だけなのだから。

しかし万物は変化する。彼は相変わらず私と共にいたが、私への情熱は摩耗していった。沼よりもっと大きな、もっと力強いものに彼は惹かれた。大砲や血、馬のいななきは男を惑わせる。

私はただ立ち尽くす。金と宝石の重みに骨を軋ませながら。彼が血と泥に塗れ凱旋するのを、ただ見ていた。

どれほどの年月が経ったのだろう。気づくと、彼がいなくなっていた。彼の代わりに幼い男子が代わってやってきたが、私は彼だけを探していた。
あの美しく雄々しく、太陽のように輝いていた男は何処へ行ったのか。私自身こそが太陽だと言うものもいたが、私は私の太陽を求めていた。あの私を魅了する、金の輝き。何処へ行ったの?どうして此処にいないの?戻ってきて、戻って・・きて。

私の骨は砕けはじめた。立ち尽くす私の宝石の輝きは曇った。誰も私に全て脱ぎ去っていいとは言わない。もう私は立っていられない。

太陽が傾く・・沈んでしまう。私は夜の空を見上げた。夜なお明るく輝く私は、沈まぬ太陽の王国の象徴だった。だから夜空を見上げたことはなかった。漆黒の深い闇。そこにひときわ輝く金色の星。太陽を見送り、優しい夜の到来を告げるあの光。確かそのような二人がいた。漆黒と金色。

ああ、そうなのだ。あの二人が太陽の次の輝き。大地を焦がす太陽ではなく、夜空の果てない深さと孤高の星の光が、心を癒す。虚栄でなく飾り立てるのでもなく、ただそこに在るだけで、人を導く。

ならばいい、それでいい。太陽が沈み、私の中から人々が去ってしまっても、夜の闇は優しく暖かい、金色の星は不変の美しさで輝く。去っていく人々よ、私を賛美した人達よ。悲劇を嘆かないで、絶望しないで。

世界には美しい光があるのだから。

 

 

END