キスには魔法がある
触れあう寸前の、わずかな躊躇い。唇が触れかけて、一瞬とどまる。でも吐息は交じっている。息で唇が渇くともう、触れあっていた。熟した果実のような柔らかさ。それでも触れた瞬間、風の強い日の砂絵のように、偶然できたシャボン玉のように消えるのではないかとおののく。
怖れのために、互いの背中に回している腕に力が入った。腕の筋肉の内側が硬くなり、ふたつの身体がさらに密着する。押し付けられた胸と、重なった唇で息ができない。は・・と声にならない声が聞こえ、唇への拘束が一瞬緩んだ。まだ絡まったままの舌が、蜜を塗られたように離れない。互いの舌下を歯列の裏をなぞるたび、耳の奥に響く鼓動が強くなる。耳を塞いでいるわけではないのに、鼓動とかすかな息遣いしか聞こえない。
今は昼?夜?ここはどこで、立っているのか倒れているのか、太陽は沈んだのか月はもう二度と昇らないのか、何もわからないわからないけれど。
ただ。
もうこの熱なしではいられないこと。このキスを永遠にとどめていたいこと。命がはてようとも一刻でも離れたくないと。
頬が濡れて、くちづけに辛い味が混じった。同時にくちびると舌が離れ、お互いの瞳の中に映っているものを確かめた。青い瞳に黒い髪、黒い瞳に沈むことのない金の髪。指先が涙を拭うと、そのまま肩に頭をもたげて抱きあっていた。
外には太陽も月もない。星の瞬きすらない暗がりの底で、
ふたりのキスが、続く。