世界がわたしに向かって開くとき
わたしは世界と戦うだろう
あなたのいない世界
わたしはここにとどまらなくては
戦うために
いつかあなたと同じように
血塗られて倒れるまで
地上ではおびただしい血が流され
憎しみが渦巻いている
それでも
何故あんなにも空は青いものなのか
あなたがいないというのに
世界はわたしに開かれる
わたしは世界に刃を向けるだろう
あなたはもう憎しみも苦痛も感じない場所にいる
わたしはここで この地上で立ち上がらなくては
戦うために
空はただひとりで立ち 地に繋ぐことは無い
空は青く 鳥はまださえずる事をやめない
痛い・・痛い。どこが痛むのだろう、分からない。喉を動かしても声が出ない、ああそうか、これはお前と同じ、撃たれて・・
「隊長!しっかりしてください」
「塔が崩れるぞ」
「もっと撃て。撃ち続けろ、止めるな」
主よ 求めさせたまえ
空が青い・・・眩しい。誰か何か言ってる。遠くで砲弾の音が、もうすぐ落ちるはずだ、攻撃を止めては駄目だ。ああ遠い、声がお前が・・何処にいる。息が・・痛みも、熱い、アンド・・
「退けてくれ、通せ!誰か医者を」
聞こえる・・鳥の羽音だ。何処かで、熱い痛い、音が遠くなる眼の奥が・・アンドレ、其処に、いる?
絶望あるところに、希望を
闇あるところに、あなたの光を
「見ろ、旗だ。奴らが降伏した」
薔薇の茂みに隠れていた私とお前と鳥が驚いて羽ばたいていった夏だった夏の午後に鳥とお前と大好きだよずっと
「バスティーユが落ちた、落ちたぞ」
「俺達の・・勝ったんだ。俺達が」
我らは与えることで受け取り
許すことで許される
この痛みはお前と同じだから懐かしいあの夏の昼下がり薔薇の茂みの傍らでお前が笑ったあの時の・・・耳の奥に血が、胸に、静かだ羽が落ちてくる、どうか・・・最後まで。アンド・・レ
「隊長・・どうして、微笑んでいるんだ」
———オスカル
「どうして・・」
空が———高い
オスカルの口元が動いたが、声にはならなかった。そして、血で濡れた右手を上に向かってゆっくり伸ばした。
「・・・隊長?」
何を掴もうとしているのか、アランはそう思い、上を見上げ息をのんだ。空が青かった。
耳に届いているのは、馬のいななき、怒号、悲鳴、銃声。硝煙が漂い、土埃が舞い上がり、ガラスが割れ、石が砕け、人が倒れ逃げ惑っているその上に、空があった。
どこまでも、雲ひとつなく翳りのない、夏の空。アランはただ呆然と、胸が裂かれる想いとともに見上げていた。
———フランソワ・・君は生きるんだ。生きていれば何度でもこの青い空を見上げることが出来る。だからどこまでも・・生きて。
死ぬことで永遠の命のもとに我らは生まれる
———アンドレ、其処にいるなら・・答えて。此処へ来て、私を抱きしめて。
フランソワ、何を見ているんだい。
神父様、あの白い鳥たち。寄り添うように飛んでるんだ。あんなに高く。
ああ、綺麗だね。
あの人みたい。始めて会ったとき、真っ白な羽根があるように見えたんだよ。また会えるかな。きっと会えるって言ってくれた。
そうだね、きっと会えるよ。いつか。
神父さま、どうしたの。泣いてるみたい。
・・・少し、日差しが眩しかったんだ。さあ、行こう。
うん!
――――フランソワ、また会おう。君の生きる未来のどこかで。
――完――
イラスト(ラフ) rds