夕陽

”そんな恋をして辛くない?”
誰かに以前そう言われた。誰だっただろう。
”叶わない片恋をしていて、苦しくない?”
そうだったんだろうか・・・いや、違う。

例えば、そうだな、夕方暮れていく空をふと見上げる。
東の空はだんだんと夜の黒に染まっていって、西は霞んだ朱の色になっている。
雲が多くなってきて、風が強い。明日は雨になるんだろうか。
そんな風に思いながら、ただ見上げている。

そうして・・世界が美しいことに気づく。
朱の色が心の隅を切り裂く痛みを伴うけれど。
この景色が無ければ、多分生きていけない。
人が生きていく上での、ほんの少しの糧は空の色と水だけだと、気づく。

人を好きになるのはただそういうことなんだ。
空を見て、綺麗だと思って、明日のことを考える。
それと同じこと。
息をするように、水を飲むように、喜びに満ちている自然な感情。

だから、なんでもないんだ。
ただ好きになるだけなら。
愛していただけだから・・今でも愛しているだけだから。

だから、泣かなくていいんだ.
お前がいるだけでいい。出会って愛しあえただけで。
そんな風に、今日も暮れる空を見上げる。
石畳が空の色を反射して、朱に染まっていく。
陽の熱でとても暖かい。だからいいよ、もう水はいい。
走らなくていい・・泣かなくても。
もう、いいから。