眼を瞑ってみた 左眼だけ

なるべく自然になるように 力を入れないようにするけれども 震えてしまう
普段見えているはずの半分が消えてしまった
確かそちら側には暖炉があって 今は火が入っているはずだ
左頬にだけ熱が伝わり 薪のはぜる音がするのでそうとわかる
ブランデーを温めている両手は見えるけれど 左腕の上半分が見えない

顔を上げてみた
視界は思ったより狭くは無いが バランスが妙だ
何かが欠けてしまった感じ
どこか不安定で
じっと目線を動かさずにいると しんしんとした不安が湧きあがってくる

お前が見ている世界もこうなのだろうか
お前は視界の隅が欠けた世界に慣れたのだろうか
何でも見える 何も失ったわけじゃない そう言って微笑むけれど

欠けた左側から手がのびて
揺らすことを止めてしまっていたグラスをテーブルの上に置いた
私はその手を取って 両手で包んだ
頬にあてて 温もりに浸る

お前の欠けてしまった隅にあるものは 私が見ていくから
私がお前の左にいるから
これからも---ずっと