雨が降り出した
いつもより少し風の冷たい午後
雨の重さで薔薇がうなだれている
ぱたぱたと落ちる水滴に
首をもたげ
花は地面を見ている
水を吸い込んで
地表は黒くなっていく
---ああそうだ わたしはここから生まれたのだ
花は思い出している
暗く暖かい土の中で眠っていた
一粒の種であった時のことを
雨に俯いたまま大地を懐かしく想う
---もうすぐ帰れる
秋が終われば花も終わるはずだ
雨がやむと薔薇は再び空に顔を上げた
地面の其処此処に
白い花弁が落ちている
---私は生まれた場所に戻っていく
やがていくつかの夜と昼が過ぎ
花は地に還っていった
冬が来てまた春が来るその日まで
薔薇は眠る