遠い背中

お前を待っている間に眠っていたらしい。蝋燭がずいぶん短くなっている。目を覚ましたとき、お前は寝台の片側に座って、何を考えているのか窓の外をみていた。そして気づいた、お前が妙に遠くに見える。自分の片目を隠すように腕を上げたまま眠り、そのままの姿勢でいたようだ。私は今、左目だけでお前の背中を見ている。蝋燭が何本か消えたのだろう。部屋が少し暗くなった。お前は私が目覚めたことに気づかない。私も息を殺している。

薄暗い部屋の中で背中が遠い。身じろぎせず目だけを動かすと、焦点を合わすのに時間がかかる。お前はいつも、こんな世界を見ているんだ。

止めていた息が苦しくなり、そっと吐き出すとお前が振り返った。微笑んでいる。その表情に私は泣く。手を伸ばしお前の首を絡めとる。暖かい重さがかぶさってきた。蝋燭の火が消えていく、お前の掌が私をなぞっている。

例えば
私の右目が無くなったとしたら。いつもお前の左に立り寄りそっていよう。私の見えない右はお前が、お前の見えない左は私が。私達は手を握り合って、離れないでいるんだ。左に映るものは私がお前に話して聞かせる、お前は右目に見える景色を私に語ってくれるだろう。私達は二人で一つの光景を見るために離れない。離れては生きていけないから。
それは二人一緒に眠りに落ちた後の夢。

夢から覚めても
どうか
離れないで