遠い花火

花火を見た

確かに見たんだ
かたわらには母がいた
いや母といた村には花火など無い
記憶にないほど遠い日に見た
ではこの記憶は
夏の夕暮れを裂く白い稲光ではなく
冬の夜の蝋燭の灯りでもない

花火は鮮やかに赤く
夕暮れの森を染める太陽ほどに紅く
夜空を埋めるほど
見つめすぎて瞬きすらできなかった
あの記憶は

左目の裏
見えない瞼の裏側
蛍の小さな暖かい明かりが
点滅する間に弱々しくなり
消えてしまうと思い悲しくなるその時
記憶を埋めるほどに眩い花火の光

火をつけられ空に飛ぶあの光は
あれはお前だった
そうだ
お前が

かたわらにいてふたりで
空を染める花を見た
散っては咲き落ちては昇り
遠くに星が壊れる音を響かせながら
お前と見たんだふたりで

どうして忘れていたんだろう
夏の夜にふたりでいたことを
あれからずっとふたりでいるのに

花火の音がする
赤い花が空に咲いている
あの空を忘れないで
どうか

忘れないで