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私はそれが壊れるなど思いもしなかった
それ はあまりにも当然のようにあり
それ が無くなることなど決してないと思っていた
それ は冷たい井戸の水のように夏の太陽のように
私を癒し降り注ぎ 寄り添い暖め眠りに誘ってくれた
それ を失ってから始めてどれほどの価値があったのか
それ は殆ど奇跡のように貴重なものだったのかを知った
私が知らずにいた長い間
それ の価値を知らず苦しみを知らず
それ を当然のように享受していた
私は無邪気なまでに傲慢で失うものがあることなど考えなかった
それ を失ってから安らかに眠ることは無くなった
それ が無くては二度と幸福が訪れないことを
それ はもう二度と戻ってこないことを
私が知ってしまった今
それ を懐かしみ残った残骸を抱き泣く
それ が去っていった遥かな空の向こうに
私はいつか辿りつけるだろうか

それ は私を待っていてくれるだろうか