始まりに戻る

たとえば大地に落ちた最初の雨の一滴
海に生まれた最初の魚
一番初めに卵を産み落としたウスバカゲロウ
何万年何十万年連綿と続いた生の終わりに
わたしはここで命を落とす

この石畳の下に染み込んだ血が
地下の水脈に辿りつき
川に流れ
海にいくのだろう
夏の月を水面に映した海は
幾万の命を吸い込み溶け込ませ
水滴を空にあげて雲をつくり
雨を落とし
また原初に戻る

私は最初に空を飛んだ怪鳥
眼の無い深海の生物
蝶が蜜を吸った桜
地を潜る土竜
人が初めて踏んだ蟲
流れに削られ透明になった石
落雷に燃えた樫の木
全て私だった
これから私になるものたちだった

生命の流れの終わりに
お前と愛しあって
死んでいくことに
一かけらの後悔すらない怖くもない
還るだけだから
また何億年も経たのちに私達は再び愛しあうだろう

花が枯れて落ちる鳥が渡っていく
象が墓場へ歩いていく
雨が降る
海に