終わりの日

愛されたかった
愛し返されたかった

ただそれだけが望み

腕の中に抱きとめたい
髪に触れ囁く言霊
愛している私が愛していると
己が想うほどに想われたい
大それた 無謀な 傲慢な望み

その望みがお前を殺した
希望ではなく絶望が心を死なせる

息が止まり鼓動が静まり瞼が閉じられ
腕が落ち柔らかく暖かな熱が冷えていく
胸が動かない何処に触れても血の流れが感じられない
蒼い瞳がもう見えない膚の色が変わっていく温度が失われる

もうお前はいないんだ
既に手のとどかない処へ逝ってしまった
安寧の天上と業火の地獄とに別れ永劫再びまみえることもない
己の許されざる罪の重さだけお前を高みへと送り

それで終わるはずだった
お前の

 

最期の

瞳を見てしまうまで

 

何故気づいてしまった
何故気づかなかった
瞼が永久に閉じられるその瞬間に
お前の眼に俺だけがいた
もう声が潰れていた身体の崩れ落ちるとき
お前が俺を見ていた

水の底に沈むオフィリアの嘆きとピエタの哀惜
幼い頃出会ってから今日この日
月のない夜のこの瞬間までお前の中にあったもの
俺が知りえたのに絶望の盲目ゆえ知ろうとしなかったもの
気づいて手をのばそうとした刹那に届かなくなったものが

毒は過たず心臓のみを狙い
一瞬だけ取り戻そうとした俺を嘲笑う
戻してくれ返してくれ返せない歯車は周り終えた

お前の愛を知ったのに
最後のひと呼吸のその間だけ
愛し合えたのに

息が漏れきったあと閉じられた瞼の淵から
ひとすじだけ 涙が零れる
口元にうっすら微笑みが浮かんでいる

まだ夜明けではない
夜明けはもう来ない
俺はいまから血を燃やした灰のなかに沈む
愛する者を殺した罪
愛されていることに気づかなかった罪を負って
いつか天使の喇叭が鳴り響いても
天上と地上と地下の三つの世界が混沌に沈むときも

お前には会えない

それが俺の永劫の罪