忘れられた夏

大砲の音が石畳の地面に伝わり
振動は路地の泥を揺るがせた
夏の風に乗って火薬の匂いが漂う
牢獄の塔が崩れ石の破片は窓を破った

それは青い空の下
掠れた雲がゆったり流れる
陽光が透明の中に七色のプリズムを光らせる

銃弾の鉛は人々の喉を貫き
倒れた男は己の手を染めた血糊に慄く
地表に穴をあけた砲弾が火の熱を帯びて歪んでいた

遥かな山あいではまだ流れる水が冷たいその時
青々とした下草の狭間で兎が跳ねる時
恋人たちが木洩れ日の下でキスを交わす時

鉛の下で人が死んでいく
人が敷いた石畳の上で火薬の力で

私はその夏を忘れた
私が路地の裏で見上げていた青い空を忘れた
空の端をかすめた鳥の影を
子守歌に眠った夜を
生まれた瞬間に見た眩い光を

全て忘れ
全て消え

残ったのは

 

お前の名前だけ