冬の羽音

冬の朝は白い。一面の雪が音すら吸い込んで、ただ鳥が高く鳴いて飛びあがる羽音だけが聞こえる。

「眠っているのか?」
聴こえないくらいに小さな声で尋ねる。天上の低い部屋で、寝台は窓の横にあり、男が眠っていた。屋根の傾斜に沿って斜めにつけられた窓は、雪で半分外が見えないが朝の光は差し込んでくる。
彼は眠りが短い、きっともうすぐ目を覚ますだろう。今にも眼を開けて、傍らに誰かがいることに驚く。だから今すぐ立ち去るべきだ。ただ眠る顔を見たくて、目覚める瞬間を知りたくてこの部屋まで来たことを、訝しがられる前に。
彼女は音をたてないように椅子から立ち上がり、扉に向かおうとした。背を向けた時、背後から光が、ガラスの屈折と雪の厚みとで七色に煌き、手元にあたった。振り返ると彼はまだ眠っている。
木の床に足音を立てずもう一度寝台に近づく。静かな寝息、微かに揺れる睫毛。彼女は知らず、顔を近づけていた。熱い息に自身の唇を重ねた。金色の髪がはらりと落ちて、彼の頬に触れる。彼の瞼がほんの少し開いた。が、目覚めはしなかった。窓には曙光が積もった雪の端にあたり、結晶が少しだけ溶けだしている。
「・・おはよう、アンドレ」

耳に届かないほど小さく暖かい声を残し、彼女は降りていった。彼はまだ夢の中にいる。冬の空のように透明で美しい夢の。

 

END