小さな少年

私は夢の中で小さな女の子になっている。ひどく奇妙なのは私はその頃自分を男だと思っていたから。夢の中の少女を私は不思議な気持ちで見ている。

灰色の天も地も、温度も匂いもない空間にいて、私である少女は歩いている。迷っているかのように、辺りを見回し立ち止まり、何か言いかけて口をつぐむ。

迷っているのではなく探しているのだと気づく。少女は必死で周囲に何かを見つけようと首を動かし、手がかりのない灰色の闇の中を、覚束ない足取りで進んでいく。不安からか、歩調は小走りになり、ふいに立ち止まり手を握りしめる。目元には涙が滲んできていた。子どもは拳で涙をぬぐう、小さな紅い唇を開いて、思い切り息を吸い込み、声を出す。灰の闇を突き通すほどの強い声で。

アンドレ!!!
声は大気のない空間を震わせる。澱んだ霧が割れて白い光が差す。
何処にいるの!!!
夢を見て眠っている私の頭蓋にも声が反響する。もっと声を出して、霧を晴らさなけりゃだめだ、もっと呼ぶんだ、もっと――喉がつぶれても声の限りに彼を呼んで。

アンドレ、アンドレ!!
眼を閉じ、拳を握り、頬を伝う涙に気づきもせず子どもは叫ぶ。
何処にいるの?どうして此処にいないの?どうして、どうして、此処へ来てよ!!

子どもは光っている、胸から腕から光が溢れだし、灰色の闇を追いやっている。白と金と青の光源。光は爆発するかのように強くなり、子ども自身も光の中に消えていきそうだ。でも少女は名を呼ぶのを止めない。駄目だ、そのままでは、そのまま叫んでいたらやがてきっと。

叫び声と光で私の全身が痛い。少女の声はもう止められない、このまま不安が絶望に変わり、あの子は消し飛んでしまう。泣きながら・・私も消えてしまう――消えて――消え

 

オスカル

 

 

小さな声がした。少女のものではなかった。叫び声にかき消されそうになりながらそれでも確かに。女の子を呼ぶ声がする。―――此処にいるよ。

此処にいるよ。大丈夫、何処にも行ったりしないから。すぐ来れなくてごめん。悪かったよ、怒らないで。だから泣かないで・・・まだ、怒ってる?

少女は俯いたまま向こうをむいてしまった。濡れた頬を彼に見られないように。でもその左手が彼の袖をしっかりつかんでいた。

私はその感覚を覚えている。彼のシャツの少し硬い肌触り。濡れた手で握ったために湿って皺が寄った。彼の手がおずおずと少女の頭を撫でていた。温度のない空間で、そこだけが暖かかった、頬を濡らす涙も。

私は知っている、覚えている。彼の手を二度と決して離さないでいようと思ったことも。彼がいるだけで、それだけで私の中が暖かく満たされることを知った、まだ自身を少年だと思っていた少女。

 

 

目覚めた時、私は左頬が少し濡れていることに気づいた。何か夢を見ていた気がする。まだその気配は残っていて、何処かで子どもの笑い声が聞こえた。鳥が空高く鳴いていたのかもしれなかった。