「アンドレ、それは何だ?」
「何ってファッションドールだよ」
「いや、それは分かる。私が言いたいのは何故、軍服なのかということだ。それに・・なんだか、私に似ていないか?」
「あー、それはその」
「なんだうろたえて。疾しい事でもあるのか」
「ファッションドールとは流行を知るためのもので」
「知ってると言ってるだろ。陛下も使っておられる」
「まぁその、美貌の連隊長の男装が流行になってるわけだ」
「は?」
「それでせっかくドールにするなら本人に似せて作りたい」
「はぁあ?」
「せっかく似せたんだから、軍服以外の普段着にも着替えさせたい」
「はぁぁああ?え、ちょっと待て。それをお前が持っているということは」
「あーえー・・そう、頼まれた。俺なら一番知ってるだろうと」
「誰に?」
「・・・・アントワネット様」
「なんだと?!って、あれ?持ってるのひとつじゃないな。幾つあるんだ」
「あとは、コルフ伯爵夫人、トゥーベル夫人、ゴドフローラ子爵夫人、シャルトレ公爵夫人(以下略・・・最後まで言う?」
「いらん!何なんだ、皆寄ってたかって」
「それだけお前が注目されてるってことだ。まあ、これも対外政策の一環だと思って」
「対外って、まさか外国まで出回ってるのか」
「そうらしいね。極東まで伝わっているとか聞いたよ」
「勘弁してくれ」
「注目されれば王家と、ひいてはフランスの威信も高まる。人気も仕事のうちだ」
「・・・アンドレ、私は騙されんぞ」
「何が?」
「ぺらぺら屁理屈喋りながら隠しただろう。後ろに持ってるものはなんだ」
「え?あ??いや、これは」
「よこせ!」
「いや駄目駄目駄目!うわあっ」
「私に勝てると思うなよ。ん?」
「あー・・・」
「なんでこれはドレスを着ている?」
「それはその・・」
「もう一度痛い目に」
「えーと・・その、おばあちゃんだよ」
「ばあやが?」
「お前が頑なにドレスを着てくれないから」
「う・・」
「せめてお人形でいいからドレス姿を見たいねえ、って言ってさ」
「うぐぐ」
「あたしも老い先短いんだから、それくらいの楽し」
「わかった!わかーーった!もう好きにしてくれ、私は知らん」
「まあ、これ以上は俺も断るからさ」
「そうしてもらいたいものだ。疲れたから休むぞ」
「はいはい、おやすみ」
「・・・・アンドレ」
「何?」
「まさかお前は・・・持ってないだろうな」
「・・・・・・持ってない」
「本当に?」
「本当!」
「ふ・・ん。おやすみ」
「おやすみ」
本当に”持って”ないよ。飾っているだけだから。