白い道

幼い頃、私は寂しかった・・のだと思う。ぼんやりとそのような記憶があるだけで、はっきりしない。鮮明に覚えているのは夏の午後。二階の東の窓で私は待っていた。そこからは、館に向かう道が遠くまで見える。初夏に鮮やかだった木々の緑は濃くなっていて、まだ高くない太陽の光は、白い道を輝かせていた。

あの向こうから、やってくる小さな馬車。その村からは何日もかかるときいた。その子は朝早く起きてここへ向かっているんだろうか。今、どこにいるんだろう。
私は二振りの練習用の剣を持っていた。小さかった私の手に合うように作られている。ひとつ年上の男の子ならちょうどいいはずだ。でも身体の大きな子だったら?こんなに小さな剣は使えないと言われたら?
期待と不安で、耳の裏に響く心臓の音が大きい。それまで同じ年頃の子と剣を打ちあうことはなかった。近しい歳は姉ばかりで、教師はどこか私に及び腰だった。でもこれからは、今日からは剣の相手がいる。毎日でも剣の練習ができる。早く・・早くきてほしい。

やがて道に一つの影が見え、近づいてくる。車輪の音も聞こえる。私は窓枠から飛び降り、正面のホールへ走っていった。その日だけ、その子は侍女が開けた表の扉から入ってきた。驚いたように、瞳を見開いている、少年。背後で締めきる前の扉から風が一陣吹き込んで、少年の癖っ毛を巻き上げた。柔らかな黒い髪、大きな・・・真っ黒な瞳。階段の上から見ている私に彼が気づき、視線が交わった。

そうだ、名前を聞かなくちゃ。これから毎日一緒に剣を合わせるから。これからいつでも・・ずっといつまでも、一緒にいるんだから。これからはきっともう、寂しくないんだ!

 

そうして、そのとおりになった。傍で眠っている彼の黒髪を、指に絡ませてみる。夢を見ているのか、かすかに微笑む。あの時の少年と同じ微笑み。

私は寂しくなくなったよ。お前も・・そうだといい。そう、あって欲しい。