夏に見た夢

お前に話したことはなかっただろうか。
まだ幼い頃、故郷の村で。小さな足で走り回ったあの丘に小さな川が流れていた。
夏の近づく、日差しの心地いい日だった。この川を遡ってみようと思った。
道を辿っていくうちに陽は高くなり、足元の草の葉先も暖かく感じた。
川は蛇行し狭くなり道もなくなった。でも歩いた、ずっと。
小さく崖になったところは這い登った。頬や腕に掻き傷ができた。
やがて小高い山の中に入ったことに気づいた。
頭上の木々は高く、鳥の声も遠い。地上に差す光も薄暗くなっていた。
それでも進む。川の源流に行き着くまで立ち止まらないと決めた。
渇きに掌に汲んだ水は冷たかった。銀の魚が跳ねていた。
光る魚を追うように浅くなった川の中を進む。
そして、遠くから水音が。川の流れの音とは違う。
周囲の森に木霊し、音楽のように流れてくる。走り出した。
鬱蒼とした木々をくぐり抜けたその先に----。

あれはなんという場所だったのだろう。
其処にだけ光が降り注いでいた。
岩肌から細く落ちる水の流れ。
滝つぼに落ちる水音。木々の間を群れ飛ぶ鳥の声。
木漏れ日が滝に反射して、淡い虹がかかっていた。

もう、昔の話だ。十年・・二十年?今でもあるだろうか。
今でもあのまま、人知れず鳥が鳴いているだろうか。
もし全てが・・戦いが終わって平和になったら、そうしたら。
あの王国へ行こう。初夏の日に。
お前の手をとって案内しよう。
陽の光と鳥の囀る夏の午後の国へ。
一緒に行くよ。約束する。