アダムの肋骨

見える?

見えはしない
だってお前が私の眼を塞いでいるのに
横たわる私の瞼の上にそっと置かれた掌
蝋燭の灯りの残像も消えてゆき
後には真の闇だけ

見える?
見えないよ

お前が笑う
双眸は掌に隠れている
だがお前は俺が手をどけさえすれば
瞼をあけさえすれば
何もかも見える
俺が失ったものが

見えない、何も
私は次第に不安になる
風の音すらない静かな夜の中で
唯一聞こえる自分の鼓動が早くなる
お前の手は暖かいのに
こんなにも不安になるのか

気づかずにいて欲しい
お前にこれ以上重荷を負わせたくない
気づいて欲しい
深い穴に落ちる不安を共に背負ってほしい

手を離して
お前の顔が見たい
眼を明ければ
いつもと変わらない笑顔が前に

何故お前は気づかない
何故俺は伝えない

お前が見たい---

瞼の上の重さが無くなり
暗闇に慣れてしまった眼を開ける
そこには彼の穏やかな笑顔があって
指が私の濡れた頬を拭っていく

知ること
知らずにいること
どちらが正しいのか
暗く深い夜の中に答えは無い