夏の夜

夢見ることなら自由だと思った

たとえば晴れた日に彼とふたり気球に乗り空を歩く
鳥よりも高く風に流され私達は渡っていく
川も野も眼下にあって私達は手をつなぎ微笑みあう

たとえば冬の夜空に上がる花火を見上げる
冴え冴えとした冬の満月のなお明るく
凍てついた夜の風景に音を立てて花が咲く
小高い丘の上で私達は肩を寄せあい眺めている

私達は何処までもともにふたりでいる
決して離れず手を取りあいお互いの体温を感じて
そんな夢を見るだけなら
夢なら許される

----しかしそれはお前の夢ではない

お前の夢も現実も硝煙と血の匂いに満ちている
石畳の上に倒れる人 怒号 怨嗟 憎悪
穏やかな春の日も 美しい冬の花火も
お前の夢ではないのだ
夢を見ている間に 争いの足音は近づいている
聞こえるだろう 知っているだろう
はるか遠くの山が地鳴りとともに崩れていく
臓腑を揺るがすその音が聞こえているはずだ

---お前が見る夢ではない

知っている
私の足元にまで火は迫っている
地鳴りとともに大地が割れ火炎が吹き上がっている
わかっているんだ
でもただこのひとときだけ

いまこの時だけは静かだ
朧に浮かぶ満月 夜鳴鳥の羽音
見上げれば天の川が光る
傍らには彼のぬくもりがある

いまこの瞬間だけ
夢みていられるだろう
明日がくれば

夢見ることも終わるだろう