暖炉

外は風が吹いている
雲は月と星をきれぎれに隠しながら飛んでいく
窓ガラスが揺れ 冷気が部屋に浸透してくる
私の頬も手も冷たい
部屋は暗い

其処へ灯りがついた
彼が暖炉に火を入れ 原初の朱色が部屋を満たす
火の前の私の身体は暖まってくる
氷が溶け血が通ってくる

しだいに赤みの差す頬に 彼の掌が重なって熱が伝わってくる
薬指が私の唇の線を辿って

私がその爪先を舌でなぞると 彼の指が入ってくる
私の悪戯な舌を押している
親指が顎を捕らえて 彼は私の眼を自分に向けさせる

私の青い虹彩の中に 彼の顔が映っているはずだ
私は彼が眼の中にいるのが好きだった
私より背の高い彼が小さく小さくなり 私の両の眼の中に入ってしまう

彼が私の中にいる
血が騒ぎ立つほどの悦び
私は見つめるだけで彼を捕り込んでしまうことができるのだ
だから眼を閉じたくないのに

彼の唇が降りてくると 私は自然と瞼を伏せてしまう
眼の中の彼を失う代わりに 唇の熱で彼を感じる
掌の感触で 息の湿り気で なぞっていく舌先で
彼を感じる
皮膚で