木の実

--見えるだろう
遠くから声が聞こえる
--あの沈む太陽の向こうにもまた別の世界がある
懐かしい声が
--全部お前のものだ
耳に木霊する

--お前は行きたいところへ行き 思うとおりに生きなさい
--本当に僕のものなの?
--ああ、そうだよ。お前には未来がある。お前が行く場所に父さんや母さんは行けないけど、お前は自由に行って良いんだ。そしてきっとどこかで、とても大事な誰かと出会うから。それからは二人で一緒に行けばいい。忘れてはいけないよ・・お前は遠くまでいける、未来を持っている。

俺は確か・・父が死んだ後、墓標の近くに一粒の木の実を植えた。そして種が芽吹き、若木になっていくのを見守った。故郷を離れる前、木は植えた子どもの背と同じくらいになっていて、茂る葉が父と母の墓の上に影を投げかけていた。今でもあの場所にあるだろうか。見上げるほどに成長して、地上に優しい木陰を作っているだろうか。
たった一人の息子が、故郷を遠く離れなければならないことを知っていたかのような父の言葉。もう長い間、思い出すことも無かったのに。

--俺はいくよ。俺はずっと・・これまでもこれからもお前と共にある
腕の中の金髪をそっと撫でつけて、自らの言葉を反芻する。二人で行こう・・未来へ進むために。