ある夜

晩餐が終わる。オスカルが湯を使ってから、自室に上がる。ころあいをみてワインを持っていくのが最近の習慣だ。それからは恋人同士としての時間が待っている。しかし、今日ばかりは部屋に上がるのが怖い。
晩餐の時だって、串刺しにしそうな視線で俺のことを見ていたしな。あれは、そうとう頭にきてる。長い付き合いだから、顔色だけでも分るけど、今回はちょっとやばいかな・・。ああ、どうしよう。だが、面と向かって「後でワインを」と言われては、行かないわけにはいかない。その声も妙に落ち着いてて、かえって凄みがあった。
本当に、今夜は行きたくない。虎の穴に入る気分だ・・神よお守りください。アーメン。

「オスカル・・入るぞ」
「どうぞ」
「ワインだよ、ここに置いていいか?」
「ああ」
「オスカル・・あの、えーと。俺、明日早いからもう下がっても良いかな」
「明日も休暇だろう。何の用事がある」
「いろいろとあるよ。明日はなんたってクリスマスだし」
「そのために早起きする必要も無いだろう」
「いや、おばあちゃんにももっと手伝えって言われてるしさ。あたしも歳なんだからもうちょっと楽させろって」
「・・・・ほう、歳ね」
「そうなんだ。最近は腰も痛いって言って・・・え?」
「ああ、まったくそうだ」
「・・・・・・・・・あの・・オスカル」
「何だ」
「・・いや、その。怒ってるのか」
「何が」
「だから、その。怒っているなら謝るよ。悪かった」
「別に誰も怒っているなんて言ってないぞ」
「・・ああ、それなら・・・いいん・・だけど」
「だがな」
「はい!」

「お前が謝るというなら、誠意を見せてもらおう」
「だって、怒ってないんだろう」
「何か言ったか」
「・・・ぃぇ」
「なんだかは知らないが、お前は私に許しを請うているわけだ」
「まぁ・・・そうだ。本当に悪かったよ。すまない」
「なら」
「オスカル?何でそこで人の顔を覗き込む?」
「これから朝まで。私の言うことに逆らわないこと」
「は?」
「返事は?」
「いや、だから何でそんな話になるんだよ」
「返事!」
「はいっ!!!」
「よろしい」

「オスカル。ちょっと待てよこりゃなんだ?!」
「見てのとおりだろ」
「見てのとおりって・・何するつもりだ」
「ま、それはおいおいわかる」
「・・なんか・・凄くやな予感がするんだけど、気のせいかな」
「お前も少しは察しが良くなったな」
「・・・・どうでもいいけど、もう少し緩めてくれるとありがたい」
「駄目」
「駄目といっても、かなり姿勢に無理があるし、だいいち痛いぞ」
「男がいちいち泣き言いうな。それに・・痛いばかりでもなくなる」
「・・って・・ちょっと、おい待てよ。オスカル」
「ごちゃごちゃ五月蝿い」
「だから・・触るな・・って」
「嫌か?」
「嫌とかいう問題じゃなくて・・こういうことは・・おい、待・・」
「本当に五月蝿い口だな、なんなら口も塞いでやろうか」
「それはちょっと、やりすぎなんじゃないかと。第一、どこで覚えたこんなこと」
「教えた人間がよく言うよ」
「俺はこんなことまで教えてないぞ!」
「昔から応用問題は得意でね」
「ああ、まったく頭は切れるし、美人だし、ついでに優しいよ。俺の恋人は。だから解いてくれ」
「逆らわないって約束だろう」
「そんな一方的な約束・・ちょっとそこは駄目だって」
「お前ここ弱いものな。それでこっちも」
「よくご存知で・・だから・・止めてくれよ、オスカル」
「止めない」
「朝まで続けるつもりか?」
「お前がどこまで我慢できるか試してみようかと思って」
「我慢って、お前ね。いくらなんでも限界があるぞ。・・・無視して続けるなよ」
「聞いてるよ」
「聞きながら脱がせるなって」
「別に全部脱がそうって訳じゃない」
「止せよ・・つ・・・痛い」
「意外と軟弱だな」
「鍛えようがないって、こんなもん」
「お前、しゃべって気を紛らわそうとしているだろ。ちゃんと集中するように」
「この状態で集中したら、えらいことになりそうだが・・」
「どうなるんだ?」
「・・・どうなる・・って・・そりゃ」
「黙って集中しろ・・ほぉ」
「感心してる場合か、頼むからここらへんで止めてくれよ」
「我慢できない?こうしたら、もっと」
「うわっ、やめろって。これ以上絶対、駄目!」
「ふふっ」
「お前・・面白がってるな・・て・・・」
「やっぱり口も塞ごうかな」
「・・・く・・いいかげんにしないと」
「しないと?」
「こっちも本気出すぞ」
「本気出してもどうにもならんだろう、この状態じゃ」
「くそっ・・もう、こぉのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ

「・・・え”っ」
「え・・あれ?・・切れた。いや、じゃなくて、ベットの支柱が折れたのか」
「うそ・・なんて馬鹿力」
「オ~ス~カ~ル~」
「・・・えーーと。お前明日忙しいんだろ?それじゃ」
「ちょっと待て!」
「だから、おやすみ」
「よくもまぁ、さんざん俺“で”遊んでくれたよな」
「アンドレ。話せば分る」
「問答無用!眼には眼をって知ってるか」
「ハンムラビ法典だろ。大昔の話じゃないか。今は18世紀だぞ」
「それがどうした」
「だから平和的解決を・・無視するな。何やってるんだ」
「見ての通り」
「私の真似をするな」
「いや、真似じゃない。倍返しさせていただく」
「眼には眼をっていうのは、眼をやられたら仕返しは眼だけという、制限でもあるんだぞ。倍返しは反則だ・・止めろ」
「倍返しと言っても、なにも痛いだけじゃないさ」
「真似ばかりしないでもちっと独創性を・・ん・・・や」
「じっとしてろよ、上手く結べないだろ」
「・・結ばれて・・たまるか・・・ん・」
「たまらない?」
「そんなこと言ってな・・・あっ、つ・・痛いっ」
「オスカル?」
「い・・痛い・手が攣って・・下手くそっ」
「悪い、どこが攣った?見せてみろ」
「隙ありっ!」
「うわぁぁぁっぁ――――――」

「アンドレ、アンドレっ!いつまで寝てるんだい。今日はクリスマスだっていうのに・・え?何だって?ベットから落ちて腰を打った?・・で、動けないって訳かい。っとに情けない孫だね。オスカル様のお誕生日だって言うのに、この有様。え、なんだって、聞こえないよ。もっとはっきりお言い。・・・・そりゃ、女に歳の話をするもんじゃないよ。当たり前だろ、まったく修行ができてないね、この子は。はいはい、湿布を持ってきてやるから、ましになったら手伝いなよ。オスカル様には伝えておくから」

はい、確かに俺は修行が足りません。骨身にしみたよ。

END