石像

すっかり夜の熱が引いて穏やかに眠っている彼の横顔が南西に細長く開けられた窓から差し込む月光に右半分だけ浮かび上がっている。呼吸は静かで微動だにしない傷のある左半分の顔は暗闇に沈んで見えない。投げ出された姿勢の彫像のようになって半分闇に溶け込んだ彼の上半身は先刻までの熱さがうそのように冷え冷えとして固まっている。

短い眠りに入る前私たちはお互いの身体から熱の蒸気を放っていた。額に汗がにじみ息も熱を帯びて肩は小刻みに震えていた。私たちは二つでひとつの生命体であり強力な磁場で吸い寄せられた不可分のものだった。自分の乱れた金髪の間から見下ろす彼の顔は今と同じ月に白く照らされていたけれど生きて粗く呼吸していた。

あまりに静かすぎる。

月の光が全ての熱を奪い彼の鼓動も奪い呪いをかけられた石像になってしまった心地して私は彼の肩を揺すった。目覚めない眠りは深い彼の名を呼ぶ何度も。何度も呼んでいるうち何故だか涙が零れて数滴彼の胸に落ちた。その濡れた皮膚から石が溶け出し彼の呼吸は戻りゆっくり片方だけの黒い瞳が開かれる。そのひとつだけの瞳が微笑んで私を見つめているのに胸をふさがれ言葉もなく彼の胸に頬を寄せた。

彼は生きて私は腕の中にいる。

それだけで全てが満たされる。再び動いた彼の鼓動を耳に聴き体温を膚で感じ彼の手が優しく私の髪をなでていることを幸福を全身で感じながら彼を抱きしめ私も眠りにつく。冴えた月の光で石像になるなら今度こそ二人一緒だろう。何も恐れることは無い夜が明けて月の呪縛がたとえ解けなくとも永遠に二人でいることに変わりは無いのだから。