手の中の夜

夜の底の泉の水面に
月が浮かんでいる
そっと手をさし入れ
月光をすくいとる

手の中のゆがんだ月
息を止め鼓動も止め
僕は月を元の形に戻そうとする

少しでも手を揺らせば
消えていく月
これが君だ
手の中にあるのに手に入らない

やがて掌の水は零れていく
ほんの少し残った水滴を
僕は飲みほす

君を想う渇きがこの一瞬だけ
癒されることを

君は知らない