楽園への道

私達は楽園にいた。七歳の子どもだけが住むことを許される。俺は八歳だったから駄目かな。そう言って笑うお前もいただろう?私はよく隙を見てお前を連れ出した。楽園の中へ。

そこは実際には小さな東屋だった。庭の隅にあって、庭師にも忘れられたようで荒れていた。枯れ葉が床に固まっていて、蜘蛛の巣もはっていたな。そこで遊ぶと埃まみれになるからよくばあやに怒られた、ふたりして。

お前は叱られるだけで良かったんだよ。俺はそのあとも山ほど怒られて説教されて散々だった。でも楽しかった?まあね。

東屋の横には野茨の茂みがあった。夏になると一重の小さな花が咲いた。茂みの下には野苺が。ベリーのような小さな木もあったけど、それは食べちゃダメだってお前が教えてくれたんだ。お前は何でも口に入れようとするから、俺ははらはらしたよ。何かあったらおばあちゃんに叱られるどころじゃなかったしね。それだけか?いや、それだけじゃなかった・・な。

かくれんぼをしてもお前はすぐ見つけてしまうし。エクスカリバーごっこでは散々な目にあったから仕返しだよ。東屋の屋根に上った時もお前だけ降りられなくなって。あの時は泣きたかったな。私の言うとおりにして助かっただろう。茨の棘で身体中に引っかき傷ができたけど足は折らなかったからね。

あれから楽園には行けなかった。私の誕生日の数日前、雪の重みで屋根が崩れた。私たちが無茶をしたからかもしれない。また夏になったら野苺をとろうと思っていたのに。薔薇の下でお前と空を見上げたかった。古い外套にくるまって星を見たかった。さなぎが蝶になる瞬間に立ち会いたかった。雨上がりに虹がかかるのを見て歓声をあげたかった。

あの楽園のなかにいて、ふたりで。私たちだけの閉じた光輪の中に。永遠の輪。あの中に。

いつかまた、辿り着けるよ。何処かにきっとある。過去のどこかではなく未来に。きっと其処へ行ける。きっと・・ふたりで。