月夜

窓枠に積もった雪が、月の光を反射している。

彼は寝台の上に半身起き上がったまま、肩から熱が逃げるのを感じていた。日中降り続いていた雪は、もうやんだらしい。重いカーテンが少しだけ開いており、月光が斜めに射していた。その光の筋は横に眠る彼女を照らし出している。

彼は見つめた。そして眼を閉じる。網膜の裏に様々な光点が点滅して揺らいでいる。その中に彼女の姿を--なだらかな曲線とけぶる髪の細い線を--描いてみる。眼を開け、いま描いたとおりの形があることを確認した。
こうしてずっと、いつまでも見つめていたい。叶わぬことだと分かっていて願わずにいられなかった。見えている間だけ、この眼が光を感じられる間だけ、一瞬でも逃したくない。たとえ見えなくなっても、目の裏に刻みつけてさえいれば。

月が雲に隠れ、あたりは闇に包まれた。手を伸ばし、そっと彼女の肩に触れる。掌から温度が伝わってくる。瞼の裏の残像と、伝わるぬくもり。誰も触れることのできない秘密の宝。それを胸に抱いて彼は部屋を出る。再びさしてきた月光が、恋人達のしばしの別れを告げていた。

 

END