背中

今、振り向いてくれないかな

僕は君のちょっと後ろを歩いているんだけど
君は剣の稽古で僕に負けて
少し怒って早足で歩いているから
多分振り返ってくれたりしないけど

今、振り向いてくれるなら
僕に笑いかけて名前を呼んでくれたら

僕は君をずっと好きでいる気がするんだ
多分これまで好きだったのより強く
振り向いてほしいな

僕からは声もかけないし名前も呼ばない
黙って君の肩の上で揺れる髪を見ているだけ
少しくせ毛で毛先が兎みたいに跳ねてる
陽に透けてきらきら光ってるよ

ちょっと怒ってる今は肩に力入れてるよね
そんなに細い肩なのに剣を振るうときは力があって驚く
僕は何度剣を落として君に叱られたか
でも少しは僕も強くなってるだろ
だからまぐれでも君を負かすことができたんだけど

あの時君はかなり驚いた顔をして
それからすごく悔しそうな表情になって
泣いてるんじゃないかと思って慌てたんだ
女の子を泣かせるなんて
そうだよ女の子なんだよ
僕よりずっと強いけど

でも違った泣いてなんかなかった
次は絶対勝つから負けないからって
そう言った君にちょっとどきっとしたことは内緒

それから僕はずっと君の背中を追いかけてる
黙って君の名前を呼んでいる

--オスカル

前を行く君がいきなり立ち止まる
そして振り返る

僕は声に出してない
絶対言ってない
どうしてわかった

僕はきっとなんとも言えない顔してただろう
そんな僕を見て君が笑う
春の光のように笑う
僕の名前を呼んで手を取って走り出す

ああ本当に僕は君が大好きだなって思うよ
本当に心から
いつも見つめているから
時々は

振り向いてほしい

 

END