祝福

私を殺したのはお前

一瞬だった。空を見上げてしまった。怨嗟の満ちる地表の熱が上昇気流になって、空の片隅をよぎる白い鳥を彼方へと舞いあげた。その羽ばたきがなぜ聞こえたのだろう。大砲と銃と剣と槍と殺戮で、なにも見えないその瞬間に。静かな透明な羽を動かし暖かい風を受けて太陽へと昇る、羽音を確かに聞いたのだ。

私には見えた。悲しみの街の向こう、花野の先に教会の尖塔がある。夏の終わりに草の萌える緑が映えて、吹き渡る風に揺れている。其処へ行こう。あの教会で彼と二人で。私の行くべき道がある。私達は永遠を誓う。決して離れない。お互い以外何もいらない。穏やかに手を取って生きよう。私は約束された場所を知っている。太陽を背に、光る塔をめがけて地上へ降りよう。もうすぐ届く、もうすぐ。

ただそれは一瞬だった。空の向こう側へ鳥が消えていく一瞬。私は見上げていた。鉛の玉が肺を貫いて、胸に溜まった血で私は溺れる。地表に崩れ落ちる。もう太陽は遠い。手を伸ばしても届かない。もう鳥が見えない彼方には辿り着けないと。

私を殺したお前

殺し殺されることでしか出会えなかったお前。お前も誰かに殺される日があるかもしれない。私がお前を許したように、お前も誰かを許してほしい。この地表でなく手の届かない彼方に、定められた場所があることを知っているはずだから。その日白い鳥が片隅に飛ぶなら思い出すだろう。生まれたその日の不安、幸福だった暖かい手、駆けていった野原。そして世界が終わるその時にも、青い空が、この瞬間に生まれる子どもがいる。私が鳥になる。お前が死ぬその時空を見上げてくれ。

私を殺したお前に神の祝福がありますように

 

END