目覚めと終わり

それは微かな地鳴りあるいは不意に訪れる背中のざわつきのようなものから始まった
確かに聞こえ感じたはずなのだが留めておくことはできなかった
ただ僅かづつ忍び足で確実に近づいてくる

エチケットが半分朽ちかけたような古いワインを蔵から取り出し
二つのグラスを並べて注ぎ込む
鳩の血よりも深い色の液体は彼らの曽祖父達が生きていた大地の匂いを漂わせた
この一杯の盃この一本の色あせた壜は今宵の彼らの喉を潤すためだけに在った

最後の夜のために
今はもう
地下の火炎は地表を破り背中ではなく心臓が切り裂かれている
マグマの熱に逃げ遅れ炎の中で踊る鹿や鳥達の声無き叫びが彼の胸の中で鳴り響く
愛によって死を贖い死によって愛を贖うこの夜に
相応しい一杯の酒

種を撒かれ添え木され枝を削られ覆いをかけられ潰され発酵して蒸留され
壜の底に時間の滓を沈めたまま眠っていた赤い液体が目覚めるとき
ひとつの愛が終わる