窓の灯り

お前は知らないだろう

時計の針が12時を指す、昨日と今日の狭間。お前の部屋の窓が見える庭先に立っている。まだ灯りがついているのが見える。揺れる蝋燭の灯りの下、お前は何を考えているんだろう。世界が祝福される今日という日に。

あれは14歳の冬だった。部屋の高い窓から月光が清かに差し込み、その白い影を見つめていると眠れなかった。色彩も熱も無いのに鮮やかな光。俺は寝台に起き上がり、外へ出た。降り続いていた雪が午後にやみ、うっすらと積もった庭を歩く。空を見上げると雲一つない。冬空の月は寒気に項垂れる木々の梢も照らしだす。月光と雪と己の吐く息、全て白く塗りこめられた世界。動くのは自分の影と息だけ。そしていつの間にか彼女の部屋の下まで来ていた。
窓に灯りは見えない。もう眠ったのだろう。そう思った時、かすかに扉のきしむ音がして、窓がゆっくり開いた。夜着の上にショールを羽織った彼女が顔を出す。月光を手に取るかのように、白い腕を伸ばす。色彩のない夜の庭、金髪が僅かな風に揺れる。吐く息は凍って、流れていく。俺はただそれを見つめていた、声は出せなかった。

それから毎年、この日を迎えるのは彼女の窓の下。窓辺の小さな灯りを見上げている。夜の闇の下の微かな灯り。それだけが俺にとって価値のあるもの。

 

お前が知るはずはない

もうすぐ時計の針が回り、一日が終わり一日が始まることを告げる。夜のしじまの中で奇妙に響く歯車の音。枕元の小さな灯りだけを残し、私は跪く。俯き手を組み、祈りを捧げる。この世に生を受けたこと、生き続けられたこと、そして愛する人の幸福を。私は思い出す、14歳だった。
私は新しい世界へ足を踏み出していた。これから祖国は変わる、確実に次の世代へと。その責の一端が私の肩にもかかっていた。敵国から来た妃を守るという責が。どこまでも続き開かれた未来へ進む、その希望と微かな怖れがあった。私は身震いした。灯りを消し寝台へ入ろうとした時、ふと窓の下の雪の上に影があることに気づいた。それが彼であることに。影は微動だにしない。そのままでは凍えてしまう、そう声をかけようとして動けなかった。何故だか、声をかければ全て変わってしまう気がした。

それから冬が来るたび、彼は窓の下にいた。雪でなく雨が降る夜もあった。恐ろしいほど月が眩い夜も。私は窓を開けなかった。彼が何も言わず其処にいることの苦しさを感じながら。
今夜も私は窓を開けない、声をかけない。ただ祈るだけ。
蝕まれた胸、限られた命、瓦解しようとしている国。触れてしまえば失って傷つける、彼の手を取れば二人して火に飛び込むことになる。私は彼に応えられない、窓の下で凍える彼に手を伸ばせない。神よ、私の命を削ってもいい、だから・・どうか、どうか彼に安らぎをお与えください。

 

私が祈っていることをお前は知らない。
俺が見つめていることをお前は知らない。

 

知っているのはきっと、この日生まれた聖なる子だけ。

 

END