新しいこの日

鐘の音はいつも死と再生を連れてくる

 

「あれは15世陛下が亡くなった時だった・・でも新国王誕生の歓声にかき消されていた」
「葬列でお前は泣いていただろう」
「そうだったかな」
「馬上で俯いた時、確かに頬が濡れていた。列に連なる者は皆、新しい国王との関係以外考えていなかったというのに」
「偉大な存在であるほど、心から悼むことは難しい。それが世の習いだ、非難するつもりはない。ただ」
「ただ?」
「昨日まで言葉を交わしていたはずの相手が亡くなってしまう、いなくなる。その事実がただ悲しく、つらい。そんな気持ちだったんだろう」
「お前なら・・そうなんだろうな」
彼は彼女のグラスにワインを注いだ。遠くからノートルダムの鐘の音が聴こえてくる。

「この鐘の音は、殿下に届いているのだろうか」
「届いていることを願うよ。三部会では平民議員も皆祈りを捧げているそうだ」
「新しいフランスはあの方が治められる。古い確執を乗り越えて、国の再生が始まろうとしているこの時に、亡くなられていいはずがない」
「オスカル、再生には、死が伴う」
「誰の?」
「国・・かもしれない」
彼はそれ以上言葉を継がなかった。彼女は降りしきる雨の向こうを見ていた。

今日も鐘の音が聴こえてくる。葬送と追悼の鐘。
「アンドレ、お前が言っていたとおりだ。戦いと死が無ければ再生もしない。これほどの・・犠牲を払って成る新しい国は・・」
本当に生まれるのだろうか。生まれた瞬間から血塗られた誕生。それは喜びなのか。死者を振り返らず、涙も流さず、屍の上に築かれる国。

鐘は鳴り続けていた。誰かが鳴らしている。少なくとも何処かの教会で、この空の下で、死を悼み嘆き、悲嘆の門を叩くものがいるのだ。
「夜明けが・・・」
もう鐘は聴こえない。嘆き泣いていた人々の声も遠くなった。奇妙な静寂の中に、白い光が満ち溢れていく。

 

「新しい日だ」
今日も鐘が鳴るかもしれない。死と再生に終わりはないのかもしれない。それでも。
「行こう・・アンドレ」

 

end