夜の呟き 呪文

アンドレの夜は 彼女を欲している夜と 彼女を遠ざけようとする夜のふたつしかない

欲している夜 彼女はすぐ其処にいる 殆ど口づけをするかのように近く 蒼い瞳から彼が溢れ出ている
遠ざける夜は彼女は微かな星の瞬きほどになる 気まぐれな雲の流れに 瞬間かき消され見失う

欲している時は 手を伸ばしても触れられないことに傷つく
遠ざければ 姿が見えないことに狼狽える
夜毎傷つき打ちのめされ 身の置き所のなさを嘆きながら眼を閉じる

だから彼は呪文を覚えた 能動の言葉 口にするたび それは形になり重さを備え 確かに その存在を手にとって感じられるほどに

 

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