水底

仄暗い水の底から、遥か彼方の水面を見上げる。寄せる波の狭間に微かに光る月光。魚の閉じない瞼にも揺らめく光の点が映る。

その光に恋い焦がれる。ゆっくりと細い胸骨に囲まれた肺が潰れぬように、水面へと近づく。もうすぐ光に届く、背鰭が腕になり手となり指を伸ばす。ああ、もうすぐもうすぐ貴方のもとへ。握った月光を飲み込む私は地上へ立った。

貴方は私を抱きとめ、私の瞳が月光のように蒼いと賛美する。私は貴方の右眼が夜の海底のようだと愛しむ。抱き合う私達は月光に照らし出され、影が長く黒い水面に揺れる。

もう水底には帰れない。たとえ次の望月までの命だとしても。月が陰っていく毎に、私の潰れた肺から血が流れだすとしても。貴方と共にいる。

貴方の黒い瞳。夜毎、私を包んでいた夜の闇。その最奥にある微かな光。私はその光のために生き、

そして、泡に還る。