記録

「班長、それは?」
「・・アンドレの日記だ。あの日、バスティーユの瓦礫の中にあった」
「中には、なんと?」
「・・読んでない」
「きっと、オスカル様のことが書いてあるのでしょうね」
「ベルナール、お前が持っていってくれ」
「私が?いいのか?」
「二人のことを、あんな人間がいたことを伝えてくれるなら。俺ひとりが持っていて、忘れ去られるより良い」
「しかし・・ロザリー、君もそれで良いと思うかい」
「・・私はきっと読むことができないわ。アランと同じように。貴方ができるなら」
「わかった、預かろう」
「頼む。今はまだあの二人を覚えている人間がいる。でも、あと数年、数十年経ってしまえば、全て消えてしまうんだ。誰もが、俺も、そうやって消えていく。それでも、あの二人のことは欠片でもいいから、残しておきたい」
「今はまだ激動の渦の中だ。その渦中にいるからこそ、残しておけるものがある。それが記者としての私の使命だ。全力を尽くすよ」
「読み終わったら・・どうするの?」
「二人の墓前に埋めておこう。もう誰の目にも触れないように」
「・・そうしてくれ」

「アラン、どうか元気で。身体を労ってね」
「ロザリー、ベルナール。来てくれて嬉しかったぜ。あの二人のことを話せて・・良かった。ずっと、誰かと話したかったのかもしれない」
「あの日の薔薇を置いていくから。だから、どうか」
「大丈夫、俺は長生きするさ。お袋も妹も、あいつらのことも。誰かが生きて覚えていてやらなきゃならない」
「さよなら」
「さようなら」

 

生きている。だから覚えていられる。 昨日のことのように思えても。明け方の夢に手を伸ばして泣いたとしても。傷が癒やされることはなくても。 俺は生きている限り、忘れない。この枯れない白薔薇のように、何時迄も・・・。

 

 

END