あの夏の夜

お前が生まれた夏に行ってみたかった。

南の日の光の柔らかなその場所。夏の終わりの風が涼しく心地いい。太陽が傾き空の色が薄くなる頃。小川近くの小さな家で、産声が聞こえる。頬を上気させた母、うっすら涙を浮かべて子を抱く父。 生まれて初めての夜に、お前は安らいで眠っていただろうか。

生まれてきて怖くはなかった?どうしてこんなに明るい場所にいるのだろうと、不思議ではなかった?それまで周りは暗く、柔らかな水の中にいたのに。どうしてここにいるのだろうと。

お前が生まれた夏の夜、そこにいたかった。お前を抱いて、頬を撫でて、まだ見えていない黒い瞳を見つめながら、伝えたかったんだ。

 

生まれてきてくれて、ありがとう。