守るべきもの

お前が彼を傷つけたから私が同じ傷を負わせてやる
彼の痛みを身をもって知るといい
苦しみも嘆きもお前は同等に負うべきなのだ
いや、それ以上の苦痛を!!

肩口を狙ったはずなのに弾は心臓の近くを抜けたという。私が狙いを外したのか?あの距離で?背を向けてゆっくり去っていこうとする男に向かって撃った。肩を掠めて足を止めるつもりだった。だが本当にそうだろうか。

悠然と笑って逃げようとした男。貴族の館から金品を奪い、貧しい者達に分け与えていた。王族の館を隠れ蓑にして盗みまわり、そして、アンドレの眼に切りつけた男。銃口を向けたとき、私は一瞬でもあの光景を・・アンドレの指の間から血が流れ出し、地面でのた打ち回っていたあの夜を--思い出さなかったはずはない。心臓を狙える。そう思った。そして私は、背中を向けた男を撃った。

結果、黒い騎士と呼ばれた男は私の手の中にいる。傷から来る発熱に弱り眠っていた。私が剣を振り上げ、その眼を・・アンドレと同様に潰そうとしたことも知らず。

お前がアンドレを傷つけた。アンドレの眼を潰した。彼の左目から光を奪った。許さない、お前も傷つけばいい---苦しみを負うがいい!

アンドレの左目はもう見えない。医者がそう宣告したとき、怒りが瞬時に全身を駆け巡った。皮膚の下が爆発したようで、私は剣を手に階段を駆け上がっていった。扉を荒々しく開いても、黒い騎士は薬で眠ったままだった。何も知らずこの男は安らいでいる。アンドレの左目が見えなくなったのに。お前が潰したのに。私がアンドレを巻き込まなければ、黒い騎士の偽者になるというアンドレの申し出を止めれば、お前がいなければ・・お前が・・私が・・・。

剣が乾いた音を立てて床に落ちた。アンドレの眼は治るはずだったのだ。捕らえられた私を救出するため、彼は眼の包帯を外した。医者に禁じられていたのに。

わかっている。これは私の咎だ。等しく傷を負うべきは私だ。”お前の眼でなくて良かった”アンドレの言葉が胸を突き刺す。怒りを向けているのは自分自身に対してだ。

”俺はまだ何も失っていないから・・だからあの男を解放してやってくれ”
肩を落とし、バルコニーに立ち尽くした私にそう諭すお前は、全てを受け入れるつもりなのだろうか。身の内から、怒りが風とともに消えていく。

アンドレ、お前があの男も私をも憎まないというなら、私も囚われるのはやめよう。怒りは静かにさせておこう。だがもし・・また再びお前を傷つけるものがあったら、私は怒りを目覚めさせる。お前に害なすものは決して許さない。それが私自身であろうと。

「アンドレ」
背中に声をかけると彼は振り返った。
私は近づいていって彼の左に立った。伸ばしはじめた前髪の間から、まだ生々しい赤い痕が覗いている。
「お前は・・私にとってかけがえのない大事な存在だ。だから、傷ついて欲しくない。何があっても、私がお前を守る。私がお前の左に立っている。それが・・」
失わせた左目の代わりになるはずもないけれど。

ひとつだけの眼が私を見つめていた。やがて彼は私の肩を抱き、そっと引き寄せた。
「・・ありがとう」
耳元で囁かれた声とともに、暖かいものが流れ込んできた。

このぬくもりを失わぬために、決して離れないために、私がお前を---守る。

END