輝ける日

私は前にあの人に会ったことがある。確かに何処かで会っているはずだわ。見間違いようもないあの金色の髪。あの色・・あの鮮やかさ。二人といるはずはないもの。何時会ったのだろう。あの人が衛兵隊にきたのは数ヶ月前だと聞いたけれど。兄は少しいつもと違う口調で、怒っているような顔をしながら心の中では戸惑っていた表情。あの人の名前を教えてくれたとき。

でも多分会ったのはもっと前。その時私は幾つくらいだったかしら。幼かったような気がする。あの時は・・皆が華やいでいて賑やかで。まだ元気だった母と兄とで私も街角へ出た。オーストリアから王女様が輿入れされたのよ。これでフランスも安心だ。でも敵国の女王の娘では。大人達はそんなことを話していて、私は兄の手を離さないようにはぐれないようにしながら、列の前へ行きたかった。遠い国から来た王女様のお顔を見たかった。ダンスがお上手でとても可愛らしい方だそうよ。そう母が教えてくれたから。
兄は私のほうを何度も振り返りながら、大人達の間を縫って前に出ようとした。手を離しちゃダメだ、ディアンヌ。もっとこっちへ。言われて進もうとしたとき、人々の大きな歓声が響いた。手を振り花びらを撒こうとする大人達に押されて、私は兄の手を離してしまった。母様、兄様!呼んだけれど二人の姿が見えず、うろたえた私はまた人並みに押されて転んでしまった。回りは大人の足ばかりだ。痛い、怖い、踏まれる。立ち上がりたいのに狭すぎる、どうしよう、兄様・・兄様。

「待て!!」
その時声が響いたのだ。天使の喇叭のように、一瞬人々が気おされた。
「少女が倒れている。場所を空けなさい」
周囲の人々は始めて私に気づき、誰かが私の腕を取って立ち上がらせてくれた。兄が私の名前を呼びながら走ってきて、怪我をしていないか半分泣きそうな顔で聞いていた。
馬上の人は私に微笑みかけ、それから隊列は進んでいった。兄は私をしっかり守るように肩を掴んでいてくれて、一瞬だけ通り過ぎる煌びやかな馬車の中の、私よりいくつか年上の少女は青い瞳だったことを見て取れた。

そうだわ、そうよ。あの人。あの人だった。涼やかな凛とした声。白馬より白い礼服。そしてあの・・髪。陽に照り映えた金色の髪。私を助けてくれたあの人が。兄に伝えよう。きっと覚えているはず。でももうマルセルが来る時間だわ。私の恋しい人。誰よりも心から信頼している、もうすぐあと数日で永遠の愛を誓える。ノックの音がする。兄様、後できっと話すわね。あの輝いていた日のことを。変わらず美しい優しい、あの金色の人のことを・・・。

 

END