哀歌

「あー、酔った」
「は?お前いつもザルだろ」
「ザルなのは俺じゃない、誰かさんのほうだ。俺が酔っちゃあいけないか?」
「絡み酒かよ」
「今なんか言ったか」
「いいや」
「いや、言った。絡む酔っ払い最悪だって」
「言ってねえよ、酒癖悪かったんだな」
「お前達に比べたら可愛いもんだろう」
「まあいつもは俺らが迷惑かけてるからいい けどさ。なんだよお前、今日に限って」
「何だろうな、酔いたい時には酔えないのに」
「いろいろ溜めこみすぎだろうが」
「さすが、兄貴はよく判ってる」
「なんだそりゃ」
「フランソワ達が言ってた。お前には隠し事できないって」
「あいつらが判りやす過ぎなんだよ」
「お前もたいがい判りやすいけどな」
「俺がなんだって」
「顔に出てる、眼にも出てる。自分で気づいてないのか」
「何の・・」
「判ってるだろう、いつも眼で追ってるくせに」
「・・・」
「気づかないようにしても、追っている、見ている。近づきたい、声が聞きたい、触れたい・・」
「・・それはお前だろ」
「そう、俺だ。俺はお前、お前は俺、女に魅入られて魂まで取られた男だ」
「俺はごめんだな、抜けさせてもらう」
「はっ。抜けられるものなら、俺だって逃げ出したいね」
「悪い冗談だ。俺はともかくお前が逃げるもんか」
「冗談でもいいさ、人生全部冗談でもいい。これが・・一睡の夢なら・・悪い夢だったら」
「お前、なんかあっただろ。この前も」
「銃をぶっぱなしたことか?あれは・・俺を撃つつもりだったんだ」
「死にたいのかよ」
「それもいいな」
「馬鹿言ってんじゃねえぞ」
「怒るなよ、お前は俺だろう」
「もう止めとけ、飲むな」
「悪い酒だからか?酒は悪くないさ、酒は綺麗なだけだ。それを飲んでいる俺が悪い」
「確かに悪い男だ、絡む相手を間違えてる」
「そう俺は最低だ・・その上酔っ払い。どうしようもない」
「らしくないぜ」
「だろうな・・酔って・・溺れて、女に。その先には何もないの・・に・・」
「おい、潰れたのか。俺は面倒みないぞ、おい」

「全く・・どうすりゃいいんだ、これ」
「私が連れて帰る。手を貸してくれ」
「隊長?どうしてここに」
「屋敷に帰らなかったから、この辺りの店だろうと思っていた。アンドレ、起きられるか」
「隊長、判ってます?こいつ、いい加減限界ですよ」
「何を言ってるんだ。判ってないはずないだろう、これは私の片われだぞ」
「は・・・?」
「生まれる前から繋がってる。これになら殺されても文句は無いな」
「あんたは・・・ホントに」
「なんだ」
「良い女だけど・・残酷で、凄まじいな」
「誉め言葉として受け取っておく」
「呆れてんだ」
「それも判ってるさ」
「・・仕方ない、手伝いますよ」
「助かる」

「殺されても文句無い・・ね。そう言い切れる相手がいるのも、悪いもんじゃないかな」
俺には、そんな相手はいない。命を賭しても惜しくないほど、愛する者がいる・・それは幸福だろうか。それとも。

それとも・・・?

 

END