サロメ-A

月が出ている?分かるはずもない、見えるはずもないのに、なぜわかるのだろう。

青白い満月が夜の隅々にまで雫を落としている。夏の暑さも闇の底に沈み、音もなく一片の葉が地面に落ちる。横たわる冷たい石の黒い床。看守の足音も無くただひとり、打たれた鈍い痛みを感じながらそれでも光を感じる。

慈悲だ。神は残酷に奪い、最後の夜に光を指し示す。視力も命も全て、痛めつけられ蔑まれながら何もかも失っても、お前さえいれば――お前さえ永らえるなら。神の慈悲などいらない、その微かなものすら与えられるものは全てお前に。お前の命と幸福に。終りの夜にお前を想えることだけを神に感謝しよう。だからどうか、どうか、生きて。明日も、その先も、お前の生とともに俺はいる、お前の中に。

ああ月が隠れる、太陽が昇る。死の冷たい刃ではなく、陽の光の暖かさを感じていよう。お互いの腕の中にいるような安らぎを。お前の声が耳に届けばきっと、微笑んで逝ける。

愛している、愛していた・・オスカル、我が、不滅の恋人。

 

 

前へ