耳なし男

彼女の声に耳を傾けてはいけない
僕を呼ぶその声に振り返ってはいけない

遠い丘の上の教会から
光の振る午後に響く鐘の音のような
木漏れ日に揺らぎ魚の銀の鱗が光る春の小川のせせらぎような
その声に

振り返ればまた僕は恋に落ちる
毎日でも何度でも恋をする
決して叶うことのない恋を

声を聞くことがなければ
君の青い瞳に僕が小さく映っているのを見ることがなければ
恋の幸福も苦しみも知らずにいられる

だから僕は耳を切り落とし眼を潰し
君の声も姿も消そうとしたのに

君はそんな僕を抱きしめて
僕の掌に細い指先で
アイシテルと書くんだ

音もなく光も失くした僕に
君のぬくもりだけが在る

僕に唯一つ残された声で
君に囁こう
愛してる