夜の呟き 薔薇を埋める

隠国--人を離れ争いから離れ逃れ森の奥深く潜む。血を好まず喧騒を断ちただ静かな安寧だけを願う人が生きる国。其処へ行けば彼女は生き長らえるだろうか?ただ穏やかに二人手を取り寄り添いあって暮らすことが、出来るだろうか。

全てを捨てる、地位も財も血縁友人故郷思い出、愛した国と人々も全て振り切って、静かな穏やかな日々を過ごす。そう望まないと言えば嘘になる。
ただ愛のために生きて欲しい、二人で生きる未来のために今、逃れて欲しいと。願う想いはただ彼女の前に立つと霧散する。

隠れ逃れて生きることは、咲く薔薇を地中に埋めることに等しい。花弁を握り潰し、芳しい香を消し、踏みにじることと変わらない。それは彼女の生き方ではない。

全霊をかけて愛した、命すら惜しくないと思えた彼女をただ。愛している愛されているというだけで、ねじ曲げてはならない。

もうすぐ無慈悲な朝がくる。光の中で彼女が立ち上がる。夜の間に腕にあったぬくもりを胸に移し共に行こう。薔薇の花咲く朝が来たのだ。