夜の呟き 永遠

私は私が今いる時間のことを考えている
今座っているこの椅子
今見えている風景
窓の外に影を落としている木々のこと
その木々が小さかった過去のこと
私と彼が幼かった頃のこと
私と彼が成長した日々のこと
私が彼を愛し始めた日のこと
それに気づかなかった長い日々のことを考えている

厩舎の隅の暗がりで秘密の話をするのが楽しかった
ふたりだけの秘密がたくさんあった
軍服に袖を通し鏡の回廊を歩き始めた時
彼が後ろにいることが心強かった
彼が左目から流した血は今でも私の掌に染みついている
お前の眼でなくて良かったと言われた私は
かける言葉を見つけられなかった

あの時言えば良かった
失った恋に泣いた時定められた道から外れた時も
彼がそばにいてくれることの価値をわかっていた
私が彼から離れられないこと
失えば生きていけないこと
伝えていれば
良かったのに
言葉に出来なくても
声の響き揺れて惑う視線触れたくて伸ばした指先
彼の傷痕に柔らかい黒髪に
触れられたら言葉にできただろう
でも私は弱かった

触れてしまえば抱きとめられれば
軍人という箍
貴族という枷
全てを溶かし自身の境界線を外し
ただ彼を愛しいと思うだけの塊になる
私は彼の腕の中に溶けるのが
怖かった
弱く脆い私という境界
捻れ縺れ砕ける私の仮面

しかし抱いていた恐れなど
隻眼を見つめ返した時消し飛んでしまった
愛してる
愛している
私がお前を必要としている
望んでいる
応えを待っている

知っていたよ
彼の応えで全てがわかった
私も彼に出会う前から彼を愛すると決めていた
私が作ってきた私は彼の愛が最初から入っていた
私は壊れない霧散しない
ただ開かれるだけ

繭を破って羽ばたく
まだ羽は薄く濡れているけれど怖れはない
彼がいる限り私の羽は強い

もうすぐ扉を叩く音がするだろう
その足音を待つ
ふたりで長い話をしよう
時間はある

もう私達は永遠に結びついているのだから