夜の呟き 空は見ている

彼が消えたことを私は知っているけれど、彼に出会う前の私が半分消えているのと同様に、彼の半分が今私の中に残っている。

 

さあ、もうすぐ立ち上がらなきゃいけない、俺は此処で待っているから行っておいで。
昔、私が高い樫の樹に登った時のように?あの日は私ひとりで登った。
あれはお前だけの樹だったから、下で待っていたんだ。あの時と同じように此処で待ってるよ。
本当だ、あの日と同じ眩しい夏の日だ。空がとても高くて青い。
ほら、人々の足音が進んでいく。立てるかい?
大丈夫、立ち上がれる。行ってくるから、私が樹から降りて来るまで待っていて。多分・・そんなに待たせはしない。
ああ此処にいる。時々、白い鳥になって空を通り過ぎるかもしれない。何かに呼ばれた気持ちになったら空を見上げて。
空の青が遥かに遠く綺麗だ。今、お前が空の片隅を横切ったのが見えた。
さあ、行くんだ・・ル、僕はずっと此処にいるよ。

 

彼の半分は私の中に、もう半分は空の隅に。だから行こう、立ち上がろう。地上に憤怒が渦巻いても、空は優しく見つめてのだから。