キスの日 昼

眠る彼女の唇に触れたい。

眼を閉じて首を寄せる、その心地よい重さ。近づく夏に額を湿らす汗と、仄かに薔薇の香り。穏やかな息遣いが肩にかかる。はらりと前髪が落ち、頬に張りついた。払おうと伸ばした指が赤い唇にあたる。柔らかく乾いた感触。慄いて手を引くが、彼女は微動だにしない。憂もなく安らいで、束の間の眠りに入っている。

長い睫毛が目元に影を落とし、緩やかな風が後毛を揺らす、光の溢れる午後の部屋。そっと、風すら動かさぬように、そっと指を伸ばす。薬指の先だけを、こころもち開いた唇に寄せる。息で指が湿る。

音ひとつない部屋で、自身の鼓動が響く。聞こえてしまうだろうか、早鐘に目を覚まして?しかし息は乱れない、睫毛の影も動かない。今だけ、眠るその唇に。

 

外で雲雀が鳴いた。唇が合わさるその寸前。誰かを、つがいを呼んでいるのかその声は。

 

彼女の肩が動き、息が深くなる。頬に落ちた髪の一筋を払って、耳にかける。夏の午後。ふたりだけの静かな、午後。