巨いなる人 ー前編

私の父は巨人だった。天にもつくかと思うほど背が高く、堂々とした肩幅、熊の爪でも傷をつけられないような胸板。重い肩章につけられた金の房は陽の光を受けて光った。
その父が剣を振り下ろすと風が起こり、雷のような音がして、地面が震える。

「私も父上のようになります!」
一番幼い時の記憶。私は四歳だった。
「それはお前が自身で証明しなくてはならない」
私を見下ろしている巨人は、剣を鞘に収めると厳かな声で言った。幼い愛し子にかけるような、声音でも返答でもない。だが私は身の内に喜びと誇りが駆け巡るのを感じた。
「なれます、証明してみせます!」
隣で母が悲しげな顔をしていたことなど気づかずに。

それから私は、庭でも自室でも暇さえあれば、与えられた小さな剣を振るった。その剣の小ささは不満だったが、いつかは雷を振るえるようになるはずだと信じていた。
父の与える課題は多かった。剣術だけでなく、敵に打撃を与えるための身体の構造、仕え守るべき王国の戦いの歴史。守るために戦え、戦うために強くあれ。強く、強く、より強く。

幼子の成長は早い。庭の蔓薔薇のアーチの下にいたのが、手を伸ばせば届くようになり、私は小さな剣が物足りなかった。夕方、騎馬で帰ってきた父に訴えた。傾く陽よりも赤い軍服の馬上の父は、自身が燃えているように見えた。
「私はもっと強くなれます!」
剣と共に差し出した掌には、幼い者に不似合いな硬い傷跡。父は二振りの剣を私に渡した。
「お前が強くある為には、剣を交わす相手が必要だ」
教師ではなく、対等に剣を打ち合える相手。到着が待ち遠しかった。夏の午後、小さな馬車でその少年は館に来た。彼が荷を解くのさえ待ちきれず、剣を渡して庭に連れていった。私の、対等な剣の相手。

 

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