夜の呟き 夏の夕暮れ

アンドレ、夏が終わる。

お前を生んだ人は、真夏の高く白い雲が低く広がっていき、風に少しひんやりとした大気を感じる頃、何を考えていたんだろう。

今日も晴れていたけれど、数日前ほどの暑さでなかったことに気づく。日が暮れようとしていて、帰ってきた夫に微笑む。並んで座る夫が肩を抱き、その人は少し微睡む。浅い夢の中で何かの予感がし、目を覚ます。

子どもが生まれようとしていた。二人の最初の子ども、そして最後のただひとりの、息子。痛みと薄れる意識の中で、その人は窓の外を見やる。晩夏の夕暮れ、朱赤の空に一羽の鳥が飛んでいる。

もう日が暮れるのに、あの鳥は家に帰れるの?大丈夫?ここにおいで・・おいで、私の子。来てちょうだい、あなたに会いたいの。

夫の手を硬く握りしめ、その人は苦痛に耐えている。息遣いは荒く、もう声すら出ない。

あの鳥、はぐれた白い鳥。夕陽に羽が赤かった。力強く羽ばたいていた、きっとこの子も。力強い子になる。そうでしょう・・強くて、優しい子に。

強い産声が小さな家に響いた。力の限り息を吸い、身体を震わせ泣いている。父親の手のひらの上で、目を開ける。

初めて見た光景は、もう陽の落ちた夜空。眼の色と同じ、黒く高く広く、誕生を祝福してしている。空に爛漫の夏の星。

お前が生まれた夏を、私も祝おう。その日、空の片隅をかすめて流れた星に、感謝しよう。お前が生まれ私が誕生し、今。二人でいることを。

 

夏が終わる、アンドレ。家へ帰る鳥を二人で見送ろう。何千何万の奇跡の先に、私たちはふたりで、いる。