星が帰る場所

あれは彼と出会って初めての夏だった。私たちは話すことがたくさんあった。昼の間お互いに話しきれないことは、夜、屋敷の一番上の空に近い彼の部屋で語り合った。夏の夜は短い。子供だった私たちは話している間に眠り込み、夜が白々と明けるころ、鳥の声に慌てふためいて飛び起きる。そんな日々がずっと続くと思っていた。子供の時間が永遠でないことを子供は知らない。

たぶんそんな中の一日だったと思う。朝までに自分の部屋に戻らないと、彼の祖母に怒られるとわかっていたからか、私たちは夜が明ける前に目が覚めた。まだ夢の続きにいるようにぼんやりとして、明るくなっていく窓の外を見ていた。朝の空気が涼やかで心地よく、よく晴れた快適な一日の始まり。でも私は少し寂しかった。眠る前あれほど輝いていた星も月も色褪せていく。いつまでも時間があると思えた夜が終わって、あわただしい一日が始まる。飛び起きてもう身支度をはじめていた彼は、黙り込んで外を見ている私に振り返った。
「どうしたの?」
彼は寝台の私の傍にきて、私が見ているものを見ようと身を乗り出した。夜はもう明けきろうとしている。明星だけが曙光の中に薄く浮かび上がっていた。
「星が帰るんだね」
「何?」
「母さんが教えてくれたんだ。朝、星は帰って眠るんだって。夜明けは、星が帰る時間なんだって」
「星が、何処へ帰るんだろう」
「空の向こうかな。星が帰る場所があるんだよ、きっと」
私は窓から顔を出し、見える限りの空の端に目を凝らした。星が眠る場所、帰るところ。それは本当にあるんだろうか。空の向こう、目では見えないところに。

幼い日に探したあの場所。あのころは見つけられなかった。時間が永遠にあると思っている幼子には見えなかった。今の私には判る、もうすぐ其処へ行ける。彼も待っているはずだから。

空が明るい。青い空の向こうに星が見える。もうすぐ往く。私たちが皆帰る場所へ。
だから・・待っていて。

もうすぐだ

もうすぐ