夢一夜

こんな夢を見た

俺は狂っている
---私が彼になっている
この女に狂わされている
---彼の眼が見ているのは私だ

柔らかい乳房に指が喰いこむ
外は雨で部屋は真の暗闇だというのに
寝台の白い身体が浮かび上がっている

---彼の眼で見る私は左半分が欠けている
掌が汗で滑った
赤い先端を口に含む
雨の音に混じるように微かだった声が高くなる
息ができないまるで水に沈んでいるようだ
---私達は深い海の底にいる
月光はおろか陽の光さえとどかない常闇

唇が触れ合うと舌が互いの中を蹂躙する
---光は届かないのに雨が海の表面を叩く音だけ聴こえた
これは鼓動の音だもうどちらのものかも判らなくなる
声なのか雨の音なのか鼓動なのか
滑らかで暖かい膚その下の血管青い静脈の筋を辿っていく

---お前の眼で見る私はこんな貌をしているのか
昼間とは違う表情
眉を寄せ唇は湿って赤い
暗闇の中で何故俺の眼は見えているのだろう
---私には私が見える同時にお前も見える

俺は
---私は
お前の中で熱くて
---弾けて融けだしてしまいそうだ
水底で融けあいもう元の形には戻れない
ゆっくり
---雨がやんで
鼓動も
---波の音に消されていく

海の底には誰もいない

 

END