夜の緑

行為が終わって重ねていた身体を離すとき、その間溶けて繋がっていた皮膚が湿った音を立てて剥がれる。

ふたりの中にあった小さな種が、熱の上昇と共に加速度的に成長してゆき、血管の中から蔦が伸びていく。あまりに成長し蔓延っているので、手足に絡んだそれを剥がすだけでも一苦労だった。蔓には葡萄のような薔薇の実のような小さな赤い実がついて、彼らが吸い付いた両の掌を離そうとすると、擦れて果汁が霧のように滴り落ちた。シーツに所々、赤紫の染みがつくのを気づかぬふりをし、彼らはまだ寝台の中で、お互いの髪に冠のごとく咲いている小さな一重の花を弄んでいた。

汗でほんのり湿ったシーツから身体をずらし、彼らの周りを包んでいる淡い薔薇色の霧に身をゆだねていたが、体温が徐々に下がると霧も薄れていった。二人の奥底はまだ離れきらず、足の指先が触れ合うだけでそこからまた緑の蔦が伸びた。薄れていく熱の霧の中で、花は心臓の動きに合わせて揺れた。早鐘だった鼓動はやがて水車が規則正しく回る音に変わり、その後は小川をくだり跳ねる魚と同じように間遠くなった。花も実もすでに寝台にかけられた上掛けの模様の中に戻っていた。名残の蔦の葉が数枚、萎れるのを嫌がって布の上で揺らいで足掻いていたが、それも動きを止めてしまった。

二人は眠りの中に入ったのだ。二つに分かれてしまった身体でも、見る夢は一つ。其処には再び緑が生い茂り花が咲き乱れ薔薇の香りの霧が包み込む。再生と死を繰り返しながら二人の夜が更ける。朝の容赦ない光が全ての生を白く塗りつぶしてしまうまで、二人の愛は千億繰り返し生まれ変わり続ける---未来永劫。

 

END